阿蘭陀正月料理図
本図は平戸藩の蘭方医長嶺家に伝わったオランダ正月料理の絵図です。
 製作年代は平戸オランダ商館が長崎出島に移転してからのものであり、1798年(寛政10)の出島の大火以後には見られない食事の時刻を知らせる引鐘が描かれていることから、それ以前の制作と考えられます。
 表題となっている阿蘭陀正月とは、江戸幕府によるキリスト教禁制の中、表だってクリスマスを祝うことが出来なかったオランダ人が、代わりとして冬至に合わせて「オランダ冬至」として開催したもの、または日本の正月祝いを真似て、太陽暦による1月1日に日本人を招いて西洋料理をふるまい、オランダ式の祝宴を催したのが始まりです。
 以下本図に紹介されているオランダ正月の献立から、主なものを紹介いたします。
@スぺイト  如形にて臓腑ともを去り銕ノ箸貫きてホウトル(water)を引、遠火に炙る
         口に蜜柑又は橙を加、尾を帋にて飾る 背金箔をふる其外諸獣仕立同じ
         頭尾に至り一尺余也 【児豚ノ丸焼】  
A大蓋物   鶏の切身燕巣椎茸木耳葱肉豆腐胡椒ホウトルに卵潰し込み加減す
Bスシスト  豚の肉をたたき肉豆腐丁子胡椒少し加 餌袋に詰めゆがく 油揚にも致す
         スシスト云 回り如銅銭長さ六七尋あり 【大豚の餌袋】  
Cカルエール 豌豆(エンドウ)ゆがく掛汁牛の揚油に醤油少し加 和国の豆に同じ  
Dコップハンテクーペイス  牛頭如形にて煮る也 酢醤油亦は芥子塩にても食
                和牛より太く逞く異形也 角を取肉あり   
Eコークテ レイスト  一人前茶碗一つ程宛押出し盛る 和国の太白米の如し 【飯】
Fフロート    児豚に仕立同じ 【鶏の丸焼】
Gハルクハム   毎に火に炙る及食 丁子を指す足を包む 【豚臘干(ハム)】
Hピスコイト(ビスケット) 麦粉に卵入れ焼く 平作り 【本国焼】
Iプロウト    麦粉にて焼く形如琉球芋の輪切に ホウトルを付食す
           イギリス語パンと云由
Jアルターフル ストウフ  芋皮を去りゆがくホウトル煮也 和国のつくねイモの如し
Kアウトハツト  和塩より上品 明礬の如し 【塩入】
Lモストルカン  芥子入
Mレツプ     ホウトル楊之塩牛はゆがく掛汁卵に酢調合山葵を加 【牛の背の甲】
Nスペレイト    小麦一斤卵廿程調合形に入押出し油揚に致す 似千鳥
Oケルセフシフト  如桜の実
Pマンカス     似青柚黒き実あり
Qガンデリア    如柿の実
Rゲンブル     生姜
Sアナナス     如割み大根
㉑カステイラ    麦粉百二十目卵砂糖一斤調合紙形に入焼く
㉒タルタ      南瓜梨桃栗類何にてもローエエン酒に砂糖肉桂少し加練合餡に作る
            外作り麦粉一斤卵十調合側に作る
㉓スウス      調合スぺレスに同じ 卵少し増す
             赤はヒリヨウスとも云
㉔カネエルコク   麦粉砂糖一斤宛肉桂参拾目程調合 形に入其上卵を引焼
             如桔梗花平作